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ただ今一度、笑い返して欲しかった。
その願いは叶うことはない。
一つ、また一つ。
掌から零れ落ちる砂のように記憶が消えていく。
愛し続けた愛しい蜜月の時が、
ゆっくりと……零れ落ちていく。
私自身が消えていく。
どれほどに悔やんでも、どれほどに嘆いても
その苦しみは……終わらない……。
その全てを飲み込み尽くすまで。
私の手は当に穢れてしまった。
愛しいものを手にかけて真っ黒に穢れてしまった。
後悔と懺悔の念だけが、
過去の私の罪に絡まって、更に奥深くへと縫いとめていく。
*
ベットに眠り続ける宝さま。
そう、この時の眠りも浅はかな私が招いた。
宝さまを独占したい。
私だけのものにしたいと願った……末路。
カムナは私の望みのままに宝さまを閉じ込めた。
宝さまの専属運転手の命を盾に、
カムナの衝撃波をぶつけた。
『どんな世界でもどんな形でも共にありたい……』
そう願った私の呪と共に。
宝さまは私の意識と共にあった。
宝さまが閉ざされた世界は私が良く知った世界だから。
その世界で出口を求めて彷徨う宝さまを、
遠くから見つめているだけで愛しい気持ちは満たされていく。
この世界に桜瑛はいない……。
時折、私に気が付くのか誰もいない空間に向かって
真っ直ぐな眼差しを向ける。
それだけであの頃に戻ったようで心は躍った。
徳力からの正式の依頼を受けて秋月の姫として、
宝さまが眠る病院へと向かう。
この場所で宝さまを私が助ければ、
宝さまは私を受け入れて微笑んでくださるかもしれない。
そんな一途の望みに心を馳せる私。
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