7.僻野ノ涯

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* -回想- 「常盤、お清めを」 私が虚空に向って呟くと空間が開いて常盤が姿を見せる。 常盤がもたらす聖水が周囲を湿らせていく。 「桜瑛、浄化の焔を」 続いて何事もないように火綾の巫女に命を下す。 「はい。姫様」 桜瑛もまた火綾の巫女としての務めを果たすべき返事を終えると、 一つの一つの文字を虚空に描きながら浄化の言葉を唱えていく。 桜瑛の体を包むように真紅の炎が広がって病室内のあらゆるところへ 飛び火していく。 この火が病室内のものを物質的に燃やすことはない。 全ての焔が部屋全体に広がったのを見届けて 自らの指先を短刀で傷つける。 私の血が丸い球体となって周囲に迸る。 数滴の球体して室内に迸らせた血液は 先程の聖水の湿り気と交わり桜瑛の焔とあわさって一気に室内に広がる。 次の瞬間、炎を飲み込んだ聖水は霧散してゆっくりと清められる。 「宝様…月姫にございます 桜瑛よりも前に出て愛しい人の名を紡ぐ。 自らの手で霊査するように宝さまの額に翳して。 「神樂、厳木だけでオロチノタニはよろしいのでは?  封式の儀の前に私は、焔龍・朱瑛さまをこの身に下ろしたいと思いますが  姫さま宜しいでしょうか?」 「桜瑛、わかりました。  鬼月は私と共に。  桜一族と宝さまのもとへ潜ります。  卯月は飛翔殿の護衛を」 桜瑛の意を受け入れる様に言葉を返す。 貴女の思い通りにはさせない…… その心を闇の淵に隠して にっこりと微笑みを携えて。 「桜瑛、頼みましたよ」 「畏まりました。  姫様、泉分【みくまり】銀の鈴玉をこれに」 泉分の名を紡ぐと、 すぐさま異空が開いて桜瑛の元の月姫の宝具(ほうぐ)が 届けられる。 玉串にも似た宝具を手に握り、 虚空に文字を描きながら舞を始める桜瑛。 さぁ……これで……桜瑛は片付く……。 残る邪魔者は後一人……。 「始まりましたね。  私共も仕度を始めましょう。  宜しいですね。飛翔殿」 「あぁ」 親しげに声をかける私に、 相手は戸惑いながら返事を返す。 この者は何も知らぬ……。 何も知らぬ者を手にかけるのはいともたやすい。 「聖水で身のお清めをさせて頂きます」
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