8. 暗闇を照らす希望の光

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「深優姫……そなたも私を責めぬのか」 柔らかな慈愛に満ちたまなざしで真っ直ぐに 私を見つめ続ける深優姫。 『どうして……。  私は貴女を責める理由なんて何処にもないわ』 深優姫は私の隣に腰を下ろして微笑み続ける。 深優姫が隣に腰を下ろすだけで、 あんなにも凍りついた冷たい世界が 少し暖かくなってくのを感じ取る。 「……暖かい……」 思わず素直にこぼれてしまった私の声に、 再び笑顔を向ける。 『大丈夫。  暗き畔で貴女の大切な宝さま……。  ううん……神威お兄ちゃんの声を聞いたの』 深優姫が紡いだ言葉に思わず声を失う。 『暗き畔。    誰もいなくて……寂しくて怖かった。  だけど……ある日……神威お兄ちゃんが来てくれたの。  神威お兄ちゃんは月姫のことを教えてくれた。  一人じゃないんだって教えてくれた。  だから貴女が振り返ってくれるまで、  貴女の名を呼び続けなさいって。  優しく教えてくれて光になって消えちゃった……』 ……宝さま……。 貴方は私に宝を残してくださっていたのですね。 暗闇の中、道に迷っても光りの世界に辿り着けるように。 私が貴方を閉じ込めたあの時間に……。 全ての元凶が私にあると知りながら……。 貴方は、この深優姫の心を、 希望の光を助けてくださっていたのですね。 初めて気がつけた宝さまの優しさ。 宝さまの贈り物。 それに気がついた時、私の瞳からは、 久しく流れることなどなかった温かいものが、 頬を伝って零れ落ちる。 ……涙……かっ。 頬に手を触れる。 生暖かな温もりを宿したその滴は、 ゆっくりと私の心の中に光りを行きわたらせていく。 崩れていく……体……。 力が抜けていく、 その体を深優姫が優しく抱きとめた。 深優姫が穢れなき魂で触れたその時だけ、 カムナによっと浸食された力が僅かに浄化される。 「……深優姫……もう良い。  私は……疲れた……」 瞳を閉じようとする私の体を深優姫は必死に揺する。 そして深優姫の指先は天を指す。
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