9.火の加護が満ちる夜

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ただ……やらねばならぬ……な。 秋月に道はない。 私一人では、 もうどうすることも出来まい。 今更、私一人が命を絶ち捧げたとしても もうどうにもならない。 宝さま……。 愛しのあの方による最期の時を待つしかあるまい。 最期の最期は宝さまに狂う女ではなく、 この地をおさめ……守り導くものとして迎えたい。 ゆっくりと心を集中して意識を深めていく。 私自身の中に流れ続ける焔龍の血をゆっくりと一点に 集中させていく。 肉体を蝕み続けるカムナ。 焔龍に吸われていく膨大な精神力。 時折、唇を噛みしめながら荒くなる息 傾ぐのを必死に繋ぎとめて……。 「……桜瑛……」 小さく名を紡ぐ。 桜瑛が、この身を支えてくれていなければ 私一人では支えきれまい。 桜瑛の腕の中、ゆっくりと顔を見上げる。 いつもはわざと逸らす その瞳をゆっくりと見つめなおして……。 桜瑛が緋姫の時代にその身と引き換えにして 私と宝さまを助けるため契約された朱瑛との契約の刻印。 焔龍の刻印が刻まれた手を両手でゆっくりと包み込む。 体内に集中させて秘めた朱瑛の気を桜瑛に流し込んでいく。 「……桜瑛……。  力を貸してくれるか?」 私の言葉に静かに首を縦にふる桜瑛。 一呼吸して覚悟を定める様に私も紡ぐ。 「私が招いた過ちは決して許されるものではない。  我一族のケジメ。  力を貸してくれるか?」 俯いて……軽く瞳を閉じた後、 深呼吸を一つしてゆっくりと顔をあげた桜瑛は まっすぐにもう一度、私の瞳を見据えた。 「月姫、ご命令を……。  私の覚悟はとうに定まっております。    今の私が寄り添う道はこの場所のみ。  再び……交わる日を信じて私は私の成すべきことを  ここで致します。  ですから、どうかご命令を……。  姫様が望まれるケジメのままに。  私はお傍で同じ時を育むのみでございます」
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