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第1章 夢を追いかけて
佐久野幹太郎は、けたたましく鳴る
目覚まし時計の音で目が覚めた。
幹太郎は、身体をやっと起こし、左手で、
目覚まし時計のスイッチを
止めてる間に、今度は、
携帯のアラームが鳴り響いた。
慌てて、止めようと身体を
乗り出した瞬間に、ベッドから
転げ落ちてしまった。
「イタタタ。。」
幹太郎は、腰に手を当てながら
よろよろと、立ち上がり
もう片方の手で、ボサボサの髪を
更に、グシャグシャに揉みながら、
洗面台へと向かい、歯を磨いた。
佐久野幹太郎は、東北の出身で、
東京の出版社に就職が決まり、
春から、上京し、独り暮しをしていた。
幹太郎の、その狭い部屋には、
片付けが終わっていない
段ボールが、積み上がったままだった。
幹太郎は、足元にある新聞の山を
乗り越えて、部屋の中央にある
茶色のテーブルの前で、あぐらをかいた。
テーブルの上には、夕べの、
飲みかけの缶ビールと、
母親が送ってくれた、漬け物の残りが
出しっぱなしになっていた。
幹太郎は、あくびをしながら、
漬け物を、指で摘まんで口に入れ、
ボリボリと音を立て、食べながら
先日、上司に言われたことを
頭に思い浮かべていた。。
幹太郎は、出版社に勤めるのが、夢だった。
何度うけても、就職が決まらず、
やっとの思いで、勝ち取った、
その会社は、「かがみ出版」という名前だった。
社長は、加賀美ミノルと言い、ほぼ、
家族経営の会社だった。
ある日、社長の息子の、加賀美つとむが、
新人の幹太郎に、自分の代わりに、
この夏の間、葉山の別荘に居る、
推理作家の、南川明夫の
担当に付いて欲しいと頼んできたのだ。
加賀美つとむは、同じ奥さんと、
再婚していた。
つまり、いったん、別れたのであるが、
また、同じ奥さんと再婚したのである。。
つとむは、必死だった。
「頼むよォ、カンちゃん、この夏こそ、
カミさんをハワイに連れていかないと
行けないんだ。。やっと、機嫌を直して
くれたんだぜぇ?
大丈夫だよ。誠心誠意を尽くせば。。
ちょっと、変わり者だけど、
カンちゃんにとっても、チャンスなんだぜ?」
軽いノリの、加賀美つとむは、
両手を頭の上に合わせ
白い歯を出し、ニッと笑った。
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