第1章

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失語症。そう断定して良いのか素人の戸塚にはわからなかった。 あまりにショックな出来事があると人は言葉を失うことがあるという。そう夏美にはあまりにもショッキングすぎたのだ。 ちょうど一年前にも同じようにこうして京急に乗り、油壺マリンパークに向っていた。どこにでもあるありふれた家族三人の姿だった。マリンパークでイルカのショーを三人で見た。可愛いイルカが飛び跳ね、食事をしたりするショーは妻の奈美にとっても夏美にとっても大満足できる内容だったはずだ。楽しいはずのゴールデンウィーク初日はそこで途絶えた。 ショーを見たあとトイレに向った奈美を夏美と二人で待っていた。しかし30分たっても奈美は姿を現さなかった。携帯は電波の届かないところにいるアナウンスを繰り返した。 何があったのか。館内放送で奈美を呼び出すも連絡はなかった。 施設を出てどこかに先に行ったのか?そんな思いで連絡を待った。 ママが戻らないことで夏美は泣き出した。ぐずる夏美をあやしながらママを探し回った。 その日の夜、捜索願いを警察に出した。 実家や友人宅にも立ち寄ってはなかった。一人でバスや京急に乗り何処かに移動したのか? なぜ連絡をくれないのか。 混乱。しかし、夏美はもっと苦しい思いだっただろう。 ママが大好きなのだ。 三日三晩泣き続けたあとまるで声が枯れてしまったかのように 夏美は言葉を失った。
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