第一章 大統領の手記 ー原文ー

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第一章 大統領の手記 ー原文ー

 私には幼い頃から自分の心を人々へ同調させてコントロールする能力があった。  裕福な家庭で生まれ、お金には困らなかったが自分の欲しい物を望めば手に入れることができた。  大人になってからも商品を売ろうと思えば好きなだけ売ることができたので、父の会社を継いだ後も苦労することはなかった。その能力を悪用してぼろ儲けしようとは考えず生まれ育った地方の田舎でのんびりと暮らせればそれで良いと思っていた。  そんなある日、私は自分の会社で働いている従業員の男に興味を抱いた。彼の名前は××××。  普段接することはあまりなかったのだが真面目に働いていると評判だった。  相当賢いという噂もあったが意外にも彼の履歴書を見ると学歴も職歴も秀でているところはなくむしろ不遇の人生を送ってきたのだろうと察した。  不思議だったのは私は彼を同調させることができなかったことだ。  その頃、私は安定的な利益を得て生活する程度には能力を利用していた。そのため従業員や顧客や地元の有力者などは必要最低限の範囲で同調させコントロールしていた。  たまに同調しない者はいたが、よほど無知だったり未熟な子供や重い病気であったり年老いた者だったりしたので、知的な彼の心を動かせなかったのはなぜなのか私は気になっていた。  時折、暇を見つけては話しかけてみたが、彼は差し支えない感じの返事しかしてくることはなかった。しかし二人きりの時ならばよく話してくれた。  私は日頃いかに彼が仕事に熱心に打ち込んでいるのかがわかった。  どうすれば売り上げが上がるかという話や会社の問題点等を明確に語ってくれた。  私の本音では私の能力により会社運営は全く問題ないのでそれほど意味のない会話になるのだが、おそらく普通に会社を経営していたらとても心強く感じられたと思う。  そしてたまに仕事以外の話題でも垣間見ることができる彼の優れた洞察力や、他ではまるで聞いたことがない独自の考え方が徐々に私に野心を抱かせるようになっていった。  その当時の私には全く必要なかったのだが彼を私の専属の秘書として一日の多くの時間を一緒に過ごさせることにした。
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