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第十四章 透明な力を越えて(前)
朝の光がセブンハマーの街を照らすと惨状が生々しく見て取れるようになっていた。夜には目立たなかった汚れや煤などの黒ずみがより荒んだ街の破壊の跡を浮き上がらせた。
街を襲ったモンスターを討伐し終えた頃には既に夜が明けていた。時魔導士カメリアの指示によって既に新しい結界が張られているが、また破られるかもしれないという憶測から街を出ようとする者たちが港に押し寄せていた。人々の不安が募るにつれて恐怖心を煽る悪い噂が拡散していく。時魔導士カメリアへの信頼が損なわれ、護衛のために訪れた者たちも街を去っていった。そして城の前にはドラゴンを閉じ込めた不気味な紫の半球体が残されたまま10人程の結界師が取囲み交代で封印を維持している。
ハヤト達は宿主の家の離れでクタクタに疲れて寝入っている。アマモは結界が張られる前に街の外の小屋に戻った。皆、朝方まで戦っていた。
不眠不休のカメリアは城の地下牢を訪れていた。鉄格子越しに昨晩ドラゴンに乗っていた槍兵の男に話しかけている。
「怪我をしているところ悪いけどいくつか質問があるので答えて下さい。あなたは教団の兵士ね?あのドラゴンみたいに結界を破ることができるモンスターは他にもいるの?」
「は、はっ!私はグレッグ。教団の者は通り名を持ちませんがいつもグレッグで通しています。ドラゴンは試作品であります。これから作られることはあるかとは思いますが、まだ他にはいなかったはずです。」
「やけに素直に答えるわね。信じてもいいのかしら。あとは…、アイ、ディー、カードでしたっけ?とかいうものを持っているのかしら?」
「はい!不肖グレッグ嘘は申しません。これは教団の者が肌身離さず、それでいて部外者へは渡したり見せたりしては御法度の物です。これです。あなた様への敬意の印にお見せ致しましょう。」
グレッグは傷だらけの身体を厭わずに胸元に隠していたカードを取り出して見せた。それは昨日ブライトが持っていたのと同等の物だった。
「それをもらってもいいかしら?嫌だとしてももらわないわけにはいかないんですけどね。あなたに選択権はないわ。」
カメリアが言うとグレッグはあっけなく格子の隙間からカードを差し出した。カメリアが受け取る際に偶然指が触れた。グレッグは顔を真っ赤にしながら言った。
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