第十六章 紫色の涙(前)

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 意外とあっさり中へ入れることになり続きの言葉を用意していたゾーイとボブが肩透かしをくらった思いでいる。ハヤト、ゾーイ、ボブの順番で並んで荷物検査を受けることになった。何となく物足りない気持ちのゾーイが事前に打ち合わせていたセブンハマーの結界が破られて不安になったなどの理由を独り言で言っている。ハヤトの魔法剣を見て兵士の一人が言った。  「これはなんとも格好いい、それでいて艶かしい感じのする刀剣だな。この全体が黄色がかっているのと柄の部分にある赤い宝石の組み合わせが何ともいえない。君は若いようだが相当な腕前のようだね。是非入団したら兵に志願してくれたまえ。」  そう言うと門が開け放たれハヤトはそこを通された。ハヤトは事前の打ち合せで武器の没収くらいはあり得るのでそれに応じるように言われていたがまたもや面食らうことになる。没収されなかったのは良いことだがそれがかえって不気味に感じた。  荷物の少ないゾーイはすぐに門を通された。次はボブの番だ。他の二人に比べて明らかに大きい荷物を見る兵士たちの目は、ボブが石段を上がっている時から既に怪しい物を見るようだった。打ち合せではそろそろカメリアが時魔法を発動させる予定だがその予兆はない。兵士の一人が叫んだ。  「うわ!何だこれは!」  それはボブのリュックサックの開け口の辺りにしがみついていたアマモだった。色が似ているためか兵士は荷物を開けようとするまで気がつかなかったようだ。アマモは自分のことを可愛がられているものと勘違いしピギーと鳴いて愛嬌を振り撒く。  ボブはその隙に降ろしたリュックの上からカメリアをつついてみる。ボブはその感触から嫌な予感がした。カメリアの呼吸が深く、もしかしたら眠っているかもしれない。気が気でないボブがこっそりアマモと心を通じ合わせて荷物の上で飛び跳ねるように指示を出す。アマモが元気いっぱいに弾んで荷物検査を妨害しながらカメリアに刺激を与える。兵士がアマモをどかせようと必死になって言った。  「君は魔物使いなのか。それは結構だが検査の邪魔になるから飼い主の君の方から避けるように伝えなさい。」  その時リュックサックの中から「うん!」と咳払いのような女性の声が漏れた。カメリアが起きたに違いないようだ。ボブは冷や汗を掻きながら言った。
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