第十六章 紫色の涙(前)

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 これが施設内の地図をグレッグに描いてもらった際に教団に気づかれないで済む方法だと教えてもらった内容だ。大司教のいる部屋には施設内の映像が映っていてそれを避ける狙いもある。古びた家屋には人が住めず近寄る者もいないという。  ハヤト達は通りを歩く教団の信徒がいなくなったのを見計らってから古びた家屋の奥の方へ進んで曲がり、通りの方からは見えないところに入っていった。  そこには手入れがされていない荒れ放題の小さな庭園がありカメリアが石灯籠の影に隠れていた。皆でしゃがみ込んで小声で次の経路を確認する。  「ここから私は時魔法に専念して長く発動させる。その間に広場へ抜けて塔の中に入る。塔の二階にある資料室の中に入ったら一旦休みましょう。」  カメリアの言葉に他の三人が頷いた。四人は足音を立てないように慎重に庭を出ると通りの様子を眺めた。そこでは兵士らしき男が声を上げている。  「おーい!さっき入団希望で中に入って来た青年三人ぐみー。手続きがまだだぞー。うーん。道に迷ってるのかな。困ったもんだ。」  カメリアが意識を集中させている。ゆっくりと呼吸をしながらいつもより丁寧に時魔法を詠唱している。時魔法が発動すると四人が走り出した。  広場の方に出ると人がまばらに歩いていた。特に何かが催されている様子はなくたまたま通りかかった人がそこを歩いているだけだった。  四人の正面には大司教がいるとされる塔が聳え立っている。四人は塔に向かって広場を走る。塔の前には看板が設置されており『今月のお言葉』と書かれている。ボブはこれを見て昼間の透明なプリズムとのやり取りを思い出す。念のために目で追って内容を覚えようと脇見する。  振り返って再び前をみると、前方を走っていた他の三人が足を止めている。ボブは何事かと三人の様子を見ると上の方を見上げているのがわかった。ボブも立ち止まって同じ方を見る。そこには時魔法を発動している中で普通に動いている魔法使いの姿があった。  その見た目が幼い女の子の魔法使いは塔の窓から魔法の杖に乗って四人の前にあらわれた。杖はプカプカと浮かんで宙を飛び回ることができるようだ。その魔法使いが落ち着いた口調で言った。
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