第十六章 紫色の涙(前)

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 キリカは余裕の笑みを浮かべて空中から何度も大きな炎を飛ばしてくる。ハヤトがそれを受けては解放し次の攻撃に備えるのを繰り返していた。  ボブとアマモは完全に蚊帳の外で相手にされていない。アマモはピョンピョン跳ねているが空に浮かぶキリカには届きそうもない。  ところがボブはこっそりと何かを始めている。まるでモンスターの心を読み解き同調させるように自らの心を鎮めて意識を集中している。そしてボブがキリカの方へそっと手を差し向けると淡い青色の波長がゆらゆらと上っていきキリカの顔の辺りまで伸びていった。  全くノーマークだったボブの方から青い波のようなものが送られてきたのをキリカが手で払いのけようとするが既にその勢いは止まらず顔全体を覆い出した。それから必死に逃げようとするキリカの動きがどんどん鈍くなっていきやがて杖に乗ったまま眠ってしまった。  そこへ準備が整ったゾーイが炎と氷の合成魔法を解き放った。細かく散った無数の氷の刃を圧縮された複数の筋状の炎が押し出すと凄まじい速度の連打で氷と炎が襲いかかる。キリカはそれをまともに受けて杖から落下した。少し遅れて持主の魔法の効力を失った杖も落ちてくる。  落ちてくるキリカをハヤトは咄嗟に受け止める。その近くで杖が落ちてカンカラカーンと音がする。カメリアが勝利に浸る暇のない緊迫した様子で言った。  「経路を変更して大司教の家に侵入します。」  四人は大急ぎで塔の方向から踵を返して大司教の家を目指した。ハヤトは気を失っているキリカ抱えたままゾーイはキリカの魔法の杖を持って走っている。大司教の家はそれ程離れているわけでもなくすぐに到着した。  事前にグレッグから聞いていた通り、家の前に見張りが一人立っていたが鍵は掛かっていなかった。四人は傾れ込むように中へ入った。そこで時魔法の効果が切れた。  大司教の家はそれほど広くなく質素だった。音を立てないように家の奥へと進み慎重にドアを開け、誰もいないか確認する。事前に聞いたグレッグの話では大司教が外出していれば中には誰もいないと聞いていたため大丈夫だとわかっていてもつい不安になってしまう。居間にたどり着くといくらかホッとしたのかカメリアが床に座り込んだ。
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