第十六章 紫色の涙(前)

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 ハヤトが隣の部屋を開けると中に何も入っていない水槽や色んな種類のロープや鞭が置かれていた。ハヤトはロープを見てこれ幸いとキリカの手足を縛り口元も布を充てがって声を出せないように紐を結ぶ。  水槽には貝類の吸盤が吸いついた跡のようなものが側面のガラス部分にびっしりと残っていた。それを何気なく立ち上がって見に来たカメリアが言った。  「なにこれ。部屋の様子もそうだけど、これもなんだか気持ち悪いわね。もしかしたら教団はセブンハマーの海のアワビやサザエでも密漁して資金源にしていたのかしら。」  「どうなんでしょうね。」ハヤトが言った。  ここなら幾らか声を出しても外へ聞かれないと判断し皆口々に話し始めた。ゾーイがボブに訊ねた。  「そういえばさっきのボブのあれ。初めて見たな。なんだったのあれ。」  「あれは魔物使いが飼ってるモンスターを寝かしつける技と僕がヒーラーとしての経験を積む間に身についたものを組み合わせた普段は役に立たない技。簡単に言うと味方だけを眠らせることができる技だよ。今まで使う場面なんてないから使ってこなかっただけ。ゾーイの魔法学校の先生の話を聞いて使ってみようと思った。」ボブが言った。  「なるほどね。芸は身を助けるとかなんとか言うもんな。リュックサックの中で眠っていたカメリア様もそうだったのかな。」  ゾーイが笑顔で言った。ボブは「違います。」と即答する。  「一瞬そうなのかなと思って聞いてたけど違うのね。それにしても人通りがまばらだったとはいえ施設の中心で時魔法が解けたら万事休すって感じだったわ。私、今まで生きていた中で一番冷や冷やしたかもしれない。詰んだとか弱気なことを言って申し訳ないわ。以後気をつけます。」  カメリアが今もそれを思い出すとドキドキするとでもいうような感じで胸を手で押さえて言った。  「とりあえずはここからまた作戦をやり直しね。またここから塔の二階を目指してもいいし、ここへ帰ってくる大司教を待ち伏せしてもいい。いずれにしてもこのままにしていたら、おそらく大司教はこのキリカという魔法使いがいなくなっていることに気がついて行動を起こしてくるでしょう。」  カメリアが真剣な面持ちで言った。
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