第十八章 それぞれの夜明け

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 ハヤトは道行く人々に回覧板に書かれている住所を尋ねようと歩み寄る。  すると周囲の人々が微かに震え出して前へ進めなくなり少しずつハヤトのいる方へ引っ張られていく。やがてハヤトの身体に引き寄せられてくっついてしまった。  ハヤトの身体には性別も年齢も異なる5人が密着して離れることができないでいる。  子供の頃に何度も見た、物が落ちたり重くなる夢に似た嫌な感じを体感しながらハヤトは申し訳なさそうに自分の身体にくっついている人たちに回覧板の数字のことを訊いた。  その内の一人がその数字の部屋は1階にあると言った。ハヤトの前方に引き寄せられた肥満気味の黒縁の眼鏡をかけた中年女性だった。女性はハヤトの右足にくっついたまま部屋があるという方向を太い指で指し示した。  ハヤトは5人を巻き込んで怪我をさせないように気を配りながらその方向へ歩き始めた。  時折、指差している方向に曲がると女性の腕の角度がそのままになっているため方向を見失う。方位磁石の針が戻るのを待つように再度行く先が確認されてから歩みを進めた。  ハヤトは自分に非があると考えているため重たいのを我慢して歩いている。やっと部屋の前にたどり着くとドアの横の数字が回覧板のものと一致しているのがわかった。  ハヤトは皆に謝罪混じりのお礼を言うとドアをノックした。ドアの向こうからこちらへ向かって歩いてくる足音が聞こえた。ドアが部屋の中の方へ開いた。  そこにいたのはハヤトが命を奪ったはずの大司教だった。ハヤトは罪悪感に囚われた。しかし生きているのなら罪悪感を持つ必要性はあるのかと心の中で自問自答している。  ハヤトは無言で回覧板を渡した。話しかけた際の相手の反応が想像できずそれが怖かったのだ。大司教も無言で受け取るとドアが閉まった。するとドアの向こうで大司教が強烈な断末魔の声を挙げて叫んでいるのが聞こえてきた。ハヤトは恐怖に駆られてその場から立ち去る。  ハヤトはとにかく遠くへ逃げた。その途中でハヤトに引き寄せられた人たちが一人ずつ剥がれていった。特にお互い痛みはなく別れの言葉を交わすこともない。やがて全員が剥がれるとハヤトは何も気にせずひたすら速く走った。  いつの間にかハヤトは建物の外へ出た。そこには何もなかった。どこまでも透明な空間が続いていた。振り返れば巨大でてっぺんが見えないくらい高い、赤茶色の土でできた塔が聳え建っていた。
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