第十八章 それぞれの夜明け

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 ハヤトは目を覚ました。畳の上に布団が敷かれておりその中にハヤトはいた。隣りには同じ柄の布団で寝ているゾーイの姿があった。  ここは教団の上層部が施設を訪れた際に宿泊する立派な部屋だった。  ハヤトが雨戸を開けると手入れが行き届いた風情のある庭園が広がっていた。目の前に見える山の切れ間から太陽が顔を覗かせた。ハヤトは改めて命を賭した戦いに勝利したことを夜明けに射す光ととも胸に刻み込んだ。  遠くで複数の鶏が鳴いているのが聞こえている。ハヤトは以前にグレッグが描いた地図の中に養鶏場があることを記憶の隅から思い出した。先程見た夢の中で絶叫していた大司教の声は鶏が騒いでいたのがそう聞こえたのかもしれないとハヤトは思った。不快感が後を引く、気の重たくなるような夢をハヤトは何度か頭の中で繰り返し追憶している。  しかしそれが何の意味も持たないような気がしてきて一旦忘れることにした。ゾーイが目覚めるまで外の風に吹かれて施設内の様子を見て歩こうかと漠然と心に決めて朝支度をする。  部屋を出ると夜中に駆け付けたと思われるセブンハマーの兵が同じ建物に滞在していた。ハヤトの姿を見かけた兵からの拍手が一つ起きればそれが複数に及んで拡散し拍手喝采にまで繋がる。その歓声を聞いてここで宿泊業に従事している教団の信徒が何事もなかったかのようにハヤトに接客する。  朝食の準備はできているようだ。ハヤトは案内されるままに食堂へと向かった。そこは食事専用の個室となっていて朝から御馳走に舌鼓を打つ。ハヤトは国賓待遇のようなもてなしを受けていた。  食べ終えるとハヤトは建物の外へ出た。そこでも何事もなかったかのように畑を耕したり訓練を行う教団の兵士や学校へ通う子供達の姿が見える。  ただこの施設内の象徴的な建造物であった塔は瓦礫と化している。その場所をセブンハマーからやって来た様々な職種の人々が瓦礫の撤去などに従事している。その中に何人か見覚えがある顔があった。それはドラゴンを閉じ込める際に宿主やブライトとともに活躍していた結界師達だった。  ハヤトがその内の一人に話しかけてみると塔の跡地はひとまず結界を張るための設備を建てる予定らしい。今日にでも一定の広さが確保できれば簡易的な仮の建物を建造して結界を張るのだという。
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