第十八章 それぞれの夜明け

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 その後も施設内を散歩しているとセブンハマーから派遣されてきた人たちが至る所で散見された。それでも教団の信徒は日常と変わりないような生活を送っているように見える。それはセブンハマーに派遣されて来た人々も同じことだ。皆、時魔導士ゾーイの時魔法によって多かれ少なかれ記憶を操られているのだろうとハヤトは思った。  ふと、ハヤトは昨日姿を消したキリカのことを思い出していた。もし先代の時魔導士ゾーイが味方として設定した人以外の記憶を操るのだとすればキリカは彼女自身が持つ能力によってそれを防いだことになる。今はどこにいるのかはわからないが逃げ延びて教団へ事態の詳細を周知させることになるのかもしれない。いずれにしても既に教団側が少なからず事態を把握しているのだろうと考えてハヤトは漠然とした不安を感じている。  ハヤトが寝泊まりした部屋に戻るとゾーイが朝食を摂っているところだった。ゾーイがセブンハマーの兵士に聞いたところによると自分達のために用意された馬車があの石段を降りた場所で待っているらしい。二人は帰りが遅くならないようにすぐにでもここを出ることを決めた。  それほど多くない荷物をまとめると二人は施設の門を出た。ゾーイはキリカの魔法使いの杖しか持っていない。  ハヤトはふとボブの荷物がどうなったのか気にかかった。思い出したくない場面の記憶を蘇らせるとボブは荷物を持ったまま消えたことに思い当たった。ロープやキリカのIDカードなどが入ったままだったろうとハヤトは推測した。  ゾーイは魔法の杖に乗って坂を下るように緩やかに降りていく。ハヤトはまだ身体の節々に痛みを感じているが若さに任せて地に足を付けて長い階段を下る。  階段を降りた先にはたくさんの馬が待機していた。それらを世話している役割の者がこの長い階段が不便だと愚痴をこぼしているのが聞こえたきた。  ハヤト達が声をかけると若造を見下すような態度だったのが、名前を名乗ると大袈裟なくらい丁寧な対応に変わった。恭しく案内されると黒毛が艶やかに日光を照り返している気品のある馬に、身なりの良い格好をした御者が待機していた。  雅な装飾が施されている幌の付いた馬車はいかにも貴族御用達といった感がある。ハヤト達が乗り込むとゆっくりと馬が歩き出した。
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