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「北見先生って、駅前のファミレスによくいますよね」 空き教室の隅で、彼女はそう口を開いた。 「…あぁ、それがどうかしたのか」 冷たい声が教室に響いた。 「一緒にいた女性、彼女さん…ですか?」 それはほぼ確信を得た上での問い掛けのようだった。よく見掛けて、一緒にいるというその女性は、もう随分前から、彼との逢瀬を繰り返いていた。 「まぁ、そんなようなもんだな」 肯定であるのに、どこか要領を得ない返事をした。彼女はその言葉に、案の定傷ついた顔をしている。 「そうですか。…あの…私、先生のことが好きです。先生の授業を楽しみに、いつも塾に来ていて、それで…」 彼女がいるという彼に、それでも必死に想いを伝える彼女はとても健気に見えた。けれど、北見は授業の最中と何ら変わらぬ表情をしている。いつもの、何にも興味はない、というあの目。 「受験が終われば、お前はもうここの生徒ではなくなる。だが今はまだ、教師と生徒だ。そういう話は、悪いが受け入れられない」 やはり、どこか歯切れの悪い断り文句だ。沈黙が、二人を包む。耐え切れなくなったのか、女子生徒は失礼しました、と頭を下げて出ていった。残された北見は、無言で窓の外を見ていた。
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