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にわかに賑わうファミリーレストラン。彼は女性と対面で座って食事をしていた。 「また、女の子を泣かせたのね」 女性はさっきの話を聞いたのだろう。そう告げて、真っすぐ彼を見た。 「毎年入れ違いで新しい生徒が入ってくる。その全てに、優しく正しく、向き合うことはできない」 「優しく…したら期待を持たせるから?」 すべて見透かしたように、彼女は言う。彼は、頷くだけだった。 「正しい断り方…なんて、誰も教えてはくれないものね。あなたは悪くないわ。ただ、好きな人が違うだけ」 慰めるようなその言葉に、彼は静かに目を伏せていた。 妙な掛け合いだ。ちぐはぐで、歪(いびつ)。 少しの時間、他愛のない会話をしながら過ごした二人は、そのまま店を出て別々の方向に歩き出していた。彼と彼女はいつも、ここで会って、ここで別れていく。 彼の帰路は、塾から駅への方面とは真逆だ。駅の裏手にある路地に入ると、女が一人、彼を待っていたように近寄っていく。同じ塾に通う、髪の短い女子生徒。いつかの記憶が、今日の空き教室の光景と重なっていく。嬉しそうに近寄る女子生徒を、彼の乾いた声が静止させた。 「本当に来たのか」 その声は、街の雑踏にかき消されていく。 まるで、変なAVでも見ているようだった。壁を背に、男の口づけを乞う女。それに応えるように近づく距離。自然に女の足に男の手が滑る。薄く笑う彼の、その乾いた表情は何も変わらなかった。それでも、なにが嬉しいのか北見に縋るようにしがみつくその女は滑稽に映った。明るい街の片隅は、闇を濃くしていった。 翌日、テレビでは女子高生の通り魔殺人事件が報道された。
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