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―――― ここ一ヶ月ほど前から、私には趣味ができた。お陰で、家に帰っても読み始めたばかりだったはずの本は、未だに4分の1も進まなくなってしまった。 彼を、見守ること。それが、今、私を日々妙に駆り立てるもの。別に、私の名前など覚えられていないことは知っている。この思いが何であるかなど、考えるだけ無駄だということも理解している。そして、彼のことも。 「今日で、3人目だな」 窓の外の雨は、どんどんその勢いを増しているようだった。 全部、流れればいい。この妙に胸が騒ぐ原因も、浮き足立つ女の顔に沈む心も。きれいに。 毎晩、私はその日の、あるいは今までの彼の全ての行動を振り返っていた。塾に通い出したのは、一ヶ月半ほど前。自分のクラスのやけに顔立ちの整った講師が、気になり始めた。きっかけはなんだっただろう。自分でもよく分からない。匂い、といえばいいのだろうか。自分とどこか同じ匂いがする、そんな気がしたのだ。 彼はその顔立ちのせいか、余計なことを一切話さないそのクールさがいいのか、女生徒に陰で人気があった。その姿も、ずっと見ていた。 私の心は、よく乱れる。それが、告白していく彼女たちへのものなのか、まるでただ物のようにその身を扱われていく彼女たちになのか、いつもファミリーレストランで他愛のない会話をする彼女に対するものなのかは分からない。ただ、衝動的に私の心は揺さぶられていく。それでいて、行動はいつもちゃんと考えられているから不思議だ。身体のどこかがおかしいのだと思う。 壊れている、彼は自分のことをそう言っていた。ほとんど感情のない顔で、喘ぎ声も街の喧騒に消えたあと、涙する女にそう告げていた。 “壊れている” それは、随分と的を射た言葉に思えた。彼が壊れているように、私も壊れている。
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