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―――― 通り魔事件は、最初の一回を除き、連続通り魔殺人事件として報道されるようになっていた。被害者の共通点はいくつかある。一つは、皆、同じ塾に通う生徒であること。そして、女性であること。唯一、一命を取り留めたという生徒も、今は精神的にひどく衰弱しているためか捜査協力には応じられていないようだ。ここ一ヶ月程で4人もの被害者が出ていれば、テレビも街も、その話題で溢れて当たり前なのだろう。一部では、塾の一時閉鎖もあり得るという噂まで流れていた。 「今日の授業はここまで。みな、気を付けて帰るように。親御さんが向かえに来られる者は、できる限りそうするように」 講師陣も重々言われているのだろう。どこのクラスでも、授業の締め括りには教員がそう告げているようだった。 夜、10時半。いつもの駅前のファミリーレストランで、北見はまた彼女との逢瀬を交わしていた。いつもの当たり障りのなさそうな会話は、二人の距離感を表しているようだった。 「美沙、そろそろ、ここで会うのはやめよう」 北見がふいに、彼女にそう言った。 「生徒にも何度も見られている。断り文句としては有り難いが、教育上やはりいいものではないのもあるし、この近辺は物騒だろう」 それは、ここ最近の通り魔事件のことだろう。 「そうね。場所を変えた方がいいかもしれないわね。会うのは休日にしてもいいし。被害者は今は女子高生ばかりみたいだけれど、今後どうなるのかもまだ分からないものね」 彼女がそう頷き返した。 「今日はもう帰ろう。いつも、家まで送れなくてすまないな」 「いいえ。疲れているだろうし、逆方向なのに送ってもらうのは私も気を遣うから、いいの」 少し慎重に言葉を選んでいるようだった。 「…まだ、前の男のことを気にしているのか」
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