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「ただいま」 家に帰ると、奥から心配する声とともに姉が顔を出した。 「おかえり。栞、今は特に危ないんだから、寄り道なんてしないで真っすぐ帰ってきなさいって言ってるでしょう」 「…姉ちゃんだって、真っすぐ帰ってきてないじゃない」 「え?」 少し、動揺したように姉は瞳を揺らしていた。 「美沙姉ちゃん、早く彼氏、紹介してね」 それだけ告げると、固まる姉を横目に私は二階の自室へと向かった。 ―――― 部屋はしんと静まり返っていた。 今日も、私は彼のことを考える。彼、北見先生のこと。彼女のこと。彼に犯された少女たちのこと。彼女たちの、絶望に満ちた顔。 「お姉ちゃんが隠し事さえしなければ、彼も何もしなくて済んで、…私も何もしなくて済んだのにな」 そう呟く声は、あまりに小さく部屋の静寂に溶けていく。 手にした本は、案の定今日も進まない。いつの間にか降り出した雨が、静かに私の苛立ちを流していくようだった。 彼を見、守ること。それが今の私の趣味。
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