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 活気のある通りだった。 道沿いに並ぶ市から魚や果物を叩き売る威勢の良い声が聞こえてくる。 「あのまま『涼』に留まれば、わしも寧も虎も、誇りを忘れ、荒みきった、ただ殺戮しか知らぬ人間になっていたであろうな。それを劉哥来は察して、この『廉』という国への帰順を勧めてくれたのだ」  父が空を見上げて遠い目をした。 『廉』の名将で、父の親友である劉哥来は3年前に死んでいる。 謀反の嫌疑を掛けられ、処断されたのだ。 劉哥来が謀反をくわだてたという証拠は無い。 一部の噂では、現『廉』大将軍の甘郎(カンロウ)の陰謀ではないか、と囁かれているが真相は定かではない。  呂舜は天を仰いだ。よく晴れた、抜けるような青い空だった。 齢初の朝は何故か快晴が多い。 『慶鱗大陸』の不思議の一つだ。 これで、もう少し暖かければ、申し分ないのだが。 暦の上では暖かい季である華風だが、風はまだまだ寒刺(カンシ)の季の名残が強く、冷たかった。 北慶鱗が本格的に暖かくなるのは、毎年華風50日前後からである。
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