序章

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 『慶飛、空に浮かび、華風貪る。万年過ぎしも、眠り、醒めず。次ぐな万年、神仙偉無、現れ、苦言弄す。慶飛、汝、遣いの獣にあるまじき。大海、慶飛の鱗、積をなし、慶飛の姿形そのまま、大陸形を成す。鱗の大陸に生なる芽吹き息をつく。偉無、唾きを飛ばし、苦言弄すも、慶飛聞かず。華風、慶飛を悦にする。次ぐな万年過ぎし頃、鱗の上に人見える』  慶鱗紀第1巻の冒頭を読むたび、博羽練(ハクウレン)はいつも笑ってしまう。 この後、神獣慶飛と神仙偉無の言い争いが更に1万年続くのだが、惚けていて、それでいて、切迫していて、何ともおかしいのだ。 慶鱗紀全26巻はおよそ500年前に馬什(バジュウ)という史家が書き上げた書物である。 知嚴館を修了した4日前、、博羽練は記念として慶鱗紀全26巻を貰い受けた。26冊の書物を入れた袋は重かったが、一番欲しかった書物を手に入れ、いつでも読む事ができる喜びは博羽練の心を弾ませた。 ただ、この慶鱗紀は『昌』の史家である楊晏が注釈をつけて、6年前に書き上げたもので、馬什が書いた原典ではない。それでも完成度は高く、博羽練は満足していた。  博羽練の眼前には殆ど海にしか見えない大河、腹波江が陽の光を跳ね返し、きらきらと輝いている。この大河はちょうど、慶飛の腹の部分にあたるらしい。  
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