序章

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 深い息をついただけで、陵平はもう何も言わなかった。 博羽練は慶鱗紀全26巻が入った袋を肩に担ぎ、船に向かって歩き始めた。  一度だけ陵平を振り返った。博羽練に向けられた陵平の眼差しは冷え冷えとしていた。  博羽練が渡し板を渡りきった頃合いで船が出航した。10挺櫓の船は足が速く、あっという間に岸が見えなくなった。  博羽練は甲板に袋を下ろし、中から慶鱗紀第26巻を取り出して、最後の頁を開いた。括りの文章を眼でなぞった。  『慶鱗ひとつに纏めし者、いまだおらず』 「慶鱗ひとつに纏めし者、いまだおらず」 声に出した。舳先が水を切る音がやけに鮮明に聞こえていた。
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