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いいぞ、その調子だ。
「でも、私は、きっと連れ戻されます。」
「君は、村を出たら、誰かと交われば良い。村の男以外だったら誰でもいいんだろ?」
私がそう言い放つと、真理子の瞳から涙が溢れてきた。
少し、言い過ぎたか。
「私、先生が、好きです。」
「そんな言葉には騙されないよ、悪いけど。」
「本当です。先生の著書を読んで、そのお人柄に惹かれました。何度も何度も、あの本を読み返しました。星に対する、純粋な気持ちに心打たれました。」
そう言うと、机の引き出しからボロボロに擦り切れた、私のただ一冊の著書を出してきた。
私のファンであることには間違いないようだが、初対面の女性を愛することができるほど、私は若くない。
「とにかく、私は、この村を出る。協力してくれるね?」
真理子は静かに頷いた。
私と真理子は何事もなかったかのように、その晩、真理子の家族と食卓を囲んだ。
こんな人の良さそうな顔をして、私を新興宗教に引きずり込もうとするなんて信じられない。
しかも、監禁まがいのことまでして、どんなカルトなんだろう。
この出来事を、書くのもいいかもしれない。
真理子の気持ちを思えば、心苦しいが、私をこんな場所に連れてきて、巻き込んだことは、やはり許せない。
食事を終えると、私は、家族が寝静まるのを待った。
家の全ての灯りが消え、ようやく家人が寝息を立て始めたころ、私は真理子の部屋へと足音を忍ばせて近づいて行った。彼女を連れ出し、道案内をさせ、この村を出るのだ。次元の裂け目など、そんなものはあり得ないが、正直、山の中で迷うのはごめんだ。こんなことなら、真理子に連れてこられる時に、ルートを覚えておけばよかった。
私は、真理子の部屋の襖をそっと開けた。
すると、私の目に衝撃的な映像が飛び込んできた。
大きな祭壇には、何本ものろうそくが立ててあり、祭壇の最上部には、全裸の真理子が横たわって、手足を縛られていたのだ。
「ど、どうしたんだ!なんで、こんなことを。」
真理子はとめどなく涙を流していた。
「私達が逃げ出すことは、もう気付かれてました。だから、私は、逃げられないように拘束されたんです。」
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