上の村 ③

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馬鹿な。この近代社会に生贄というような、バカげたことが本当に行われるなんて。 私は、真理子の駆け寄り、真理子の手足の拘束を解いてやった。 「ダメです。先生。あなたまで生贄にされてしまいます。逃げて、先生。」 私は、哀れな少女を抱きしめた。 「逃げるぞ。」 私は、真理子の手をかたく握る。 ざざざざ。 その時、廊下から、物音が聞こえた。 ざざざ、ざざざざ、ずぞぞぞぞぞ。 何者かが、廊下を這い回るような音。 そのうち、全ての襖がカタカタと小刻みに揺れだした。 私は恐ろしさに固まっていると、真理子が震える声で囁いた。 「・・・見つかってしまいました。」 その刹那、襖から黒く鋭いものが、バリンと音を立てて突き出してきて、寸でのところで、私の手の皮一枚をかすめた。 「・・・っつ!」 手の甲から、生暖かい血が滲んだ。 その直後、襖は大きな音を立てて倒れ、襖の向こうに何か巨大な黒い影がいくつも並んでいた。 ろうそくの炎にぼんやりと、その輪郭が浮かぶ。 「えっ!」 私は思わず、叫んだ。 その姿は異形の物。黒く光る、鋼のような楕円形のフォルム。頭には触覚が生え、足は無数に動いている。 昆虫のような羽根を持ち、それは太古よりこの地球にはびこっている、嫌われ者の姿をしていた。 何頭ものそれが、わしゃわしゃと私達に迫り、間合いを詰めてきた。 「ひぃぃぃぃっ!」 私は、あまりのおぞましさに後ずさり、悲鳴をあげた。 私の手を掠めたのは、どうやら、この異形の物の、鋭い顎のようだ。 ゴキブリのようでもあり、顎の様子は、ハンミョウのようでもある。 信じられないことだが、今は逃げるしかない。 私は、真理子の手を引くと、一目散に、反対側の縁側から庭へと飛び出した。 車に真理子を引っ張り込み、鍵をかけるとエンジンをかける。 なかなかエンジンがかからない。 「くそっ!」 私が、ハンドルを叩くと、追い着いて来た異形が窓に張り付き、鋭い顎で窓を叩き割ろうとしている。 「なんなんだ!こいつら!」 「シャンの僕たちです。彼らは従順な僕。神の力には逆らえません。」 諦めたように真理子がうなだれる。ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返し、泣くばかり。
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