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馬鹿な。この近代社会に生贄というような、バカげたことが本当に行われるなんて。
私は、真理子の駆け寄り、真理子の手足の拘束を解いてやった。
「ダメです。先生。あなたまで生贄にされてしまいます。逃げて、先生。」
私は、哀れな少女を抱きしめた。
「逃げるぞ。」
私は、真理子の手をかたく握る。
ざざざざ。
その時、廊下から、物音が聞こえた。
ざざざ、ざざざざ、ずぞぞぞぞぞ。
何者かが、廊下を這い回るような音。
そのうち、全ての襖がカタカタと小刻みに揺れだした。
私は恐ろしさに固まっていると、真理子が震える声で囁いた。
「・・・見つかってしまいました。」
その刹那、襖から黒く鋭いものが、バリンと音を立てて突き出してきて、寸でのところで、私の手の皮一枚をかすめた。
「・・・っつ!」
手の甲から、生暖かい血が滲んだ。
その直後、襖は大きな音を立てて倒れ、襖の向こうに何か巨大な黒い影がいくつも並んでいた。
ろうそくの炎にぼんやりと、その輪郭が浮かぶ。
「えっ!」
私は思わず、叫んだ。
その姿は異形の物。黒く光る、鋼のような楕円形のフォルム。頭には触覚が生え、足は無数に動いている。
昆虫のような羽根を持ち、それは太古よりこの地球にはびこっている、嫌われ者の姿をしていた。
何頭ものそれが、わしゃわしゃと私達に迫り、間合いを詰めてきた。
「ひぃぃぃぃっ!」
私は、あまりのおぞましさに後ずさり、悲鳴をあげた。
私の手を掠めたのは、どうやら、この異形の物の、鋭い顎のようだ。
ゴキブリのようでもあり、顎の様子は、ハンミョウのようでもある。
信じられないことだが、今は逃げるしかない。
私は、真理子の手を引くと、一目散に、反対側の縁側から庭へと飛び出した。
車に真理子を引っ張り込み、鍵をかけるとエンジンをかける。
なかなかエンジンがかからない。
「くそっ!」
私が、ハンドルを叩くと、追い着いて来た異形が窓に張り付き、鋭い顎で窓を叩き割ろうとしている。
「なんなんだ!こいつら!」
「シャンの僕たちです。彼らは従順な僕。神の力には逆らえません。」
諦めたように真理子がうなだれる。ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返し、泣くばかり。
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