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「大丈夫か?」
私は、真理子の肩を揺さぶった。
すると、真理子はゆっくりと目をあけた。
「良かった。無事だったのか。」
私は、心から彼女が無事だったことを喜んだ。
もうこんな目に遭わされた恨みなど、吹き飛んでいた。
彼女は嗚咽して私にしがみついて泣いた。
私は、車の中で、彼女の髪の毛を撫で続けた。
私は、真理子に自分のコートを着せて、その車を離れた。
こんなところで職務質問にあったら厄介だ。
私達がなぜ、助かったかはわからない。
真理子が言うには、アザトースの怒りのエネルギーにより、次元の外にはじき出されてしまったのではないかということだった。恐らく、あの村は全滅してしまったのだろう。
真理子にもう帰る場所はない。
私は、その夜、真理子を抱いた。
きっと、これは運命だったのだ。
しばらくして、真理子が妊娠した。
私は、この年になって、子供を設けることができるなど思ってもみなかったので嬉しかった。
一生、結婚しないだろうと思っていたが真理子の妊娠を機に結婚した。
そして、私は今、真理子の出産に立ち会っている。
「お父さん、もう少しで出てきますよ。お母さん、頑張ってね。」
苦しそうな真理子の背中をさすってやる。
「がんばれ、真理子。もう少しだぞ。」
「んんんんっ、うぐぅぅうぅぅぅーーーーひぎゃあああああああ!」
真理子の絶叫とともに、医師も何故か驚き、絶叫した。
「ぎゃああああ、何だこれは!」
医師の叫びに、私は思わず、真理子の足の間を見た。
そこからメリメリと音を立てて、真っ黒な頭と触覚が、真理子の肉を裂いて這い出していた。
私はあの恐怖を再び思い出していた。あの異形だ。
真理子の肉を裂き、血まみれの黒い塊から、鋭いあごが飛び出して、医師の喉下に喰らいついた。
医師の首からはおびただしい血が、噴出し、私の顔を濡らした。
「わあああああああ!」
真理子は完全に白目を剥いて、意識が無い。
慌てて外に出ようと振り向くと、私の喉元に熱い何かが突き刺さった。
そこには、看護士が立っていた。
看護士の口は耳元まで裂け、中から黒く鋭い顎が飛び出し、私の喉を切り裂いていた。
その看護士の胸の名札には「上シャン」の文字が。
遠ざかる意識の中、生まれた異形に食われる真理子の姿を見た。
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