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それは突然の出来事だった。
ついさっきまで笑顔でお喋りしていた親友の理恵が、一瞬にして身体をトラックに奪われ、私から数メートル先のところで横たわっていた。
何が起こったのか分からず、私はただ呆然とそれを見つめた。
近くを歩いていた見知らぬ女性が悲鳴を挙げた。その悲鳴を聞きつけ、辺りには、ぞろぞろと人が集まってきた。
「理恵!理恵!目を開けてくれ!理恵!」
理恵の彼氏の悠さんが、理恵を抱き抱えて泣いている。
私は恐る恐るソレに近付く。
近付くにつれ、徐々に見えてきたソレは、私の知る、あの笑顔の可愛い理恵の姿ではなく、顔の右半分が醜く歪み、首も曲がり、右腕、右足も、本来あるべき方向とは逆を向いていた。
赤く薄汚れた液体が、二人の辺りに、じわりじわりとひろがっていく。
「揺すったらダメだ!急いで救急車を!」
誰かが叫んだ。
「いや、もう手遅れだよ……。」
低いおじさんの声がそれに続いた。
誰もが思った。
これはもう助からない。
だが、一人の男性は焦っていた。
「そんな!困る!だれか!救急車を!」
「落ち着け!そんなことよりもまずは警察だ!」
「はぁ?!け、警察!?そ、そんな!困る!」
「困るとはなんだ!」先程の低音のおじさんと若い男性が言い合いを始めた。どうやらこの若い男性は、理恵を跳ねたトラックのドライバーのようだ。
そんな二人の争いを横目に、私は、さっと携帯を取り出し、ダイヤルで110を押した。
コール1回ですぐに出た。
『こちら110番。事故ですか?事件ですか?』
「事故です。友達が、トラックに跳ねられました……」
『分かりました。現住所は分かりますか?』
「はい……」
近くの自動販売機にゆっくり近付く。
その間も、おじさんと若い男性は口論し、悠さんは理恵を抱き抱えて泣いていて、回りの人だかりは、わーきゃー騒いでいた。
高校2年生になったばかりの事だった……。
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