濡れつづける。

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はっとした。 あたしは注文をとらなくちゃいけないんだった。 かち割られたスイカのように無様なほど、心臓がぐちゃぐちゃと高鳴る。 「ご注文はお決まりですか?」 あたしを見る、その目。 そのメガネを、あたしはきれいに舐めたかった。 「ギムレットをお願いします」 丁寧に、そっと彼は言った。 あたしがシェイカーをふらせてもらえる時は限られている。 練習と勉強をしながら、アルバイトから半年たった時、ギムレットならば出していい。 そうチーフに合格をもらったからだ。 そのあとは、シェイカーを使わないカクテルしか合格は出ていない。 このお店はカウンターがL字型にあり、ボックス席がほんの4席のみ。 それに対して、チーフと店長、アルバイトはあたしだけ。 キッチンには腕のいい元大手のホテルのシェフを雇っている。 当然、アルバイトのあたしは普段、ウェイトレスとレジにまわる。 今日は奇跡の日。 そうとしか思えなかった。 空いていたからだ。
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