1章「始まりは終わりを告げる」

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それは何もない平然とした秋の日だった。 「おーい、なりー。……あっ、読書してたか。すまん」 私は推理小説から目を逸らし右斜めの方向を見る。そこには一人の生徒の周りに三人が集まっていた。ちなみに秋上成助(あきうえなりすけ)だから“なりー”と呼ばれている。 「いや、平気。……で何?」 「手相占いしてみる?」 「何だそれ?」 「お前、高校生なのに知らないのか?」 “手相占い”という言葉はテレビで聞いていたが、テレビに映る手は自分の手じゃないからという理由で無視していた。だが今はどうだろう。何だか見てもらいたい気分になってくる。 「もちろん知ってるけど、お前できるの?」 「まぁ、テレビや雑誌等の情報程度だけど出来ないことはないと思うよ」 せっかくだからやってもらうか。そう思い私は彼の方に向かうのであった。 彼の前にあるイスに座る。 「じゃあ、手相を見るぞ。左手を見せて」 「おう。右手じゃなくていいのか」 「右手は女性、左手は男性だ。ではこれより私は集中する」 彼は私の差し出した左手を自分の左手に軽くのせて虫眼鏡を掴みその手相をじっくり見る。 しかし数秒だった。彼は肩を揺らし始めてこう言った。 「悪い。お前の手相は占えねぇよ」 「……」 「おい、こいつの手相、そんなに複雑なのか」 黙っていた私の代わりに周りにいた男子生徒の一人が言う。 「いや、お前らの手相よりも簡単だった」 「じゃあ、何だよ。こいつの手相が占えないのは」 「無いんだよ、手相の重要な線が……お前らも見れば分かるだろう」 周りの三人も私の手相を見た。そして占った彼が私の違和感を言う。 「こいつには生命線がねーんだよ。ククククク……」 彼とその周りの男子生徒は一斉に笑い出す。占った彼が肩を揺らしていたのは笑っていたのだ。そう、幼稚園の先生の言葉も私の生命線に対してのことだった。彼女も彼らのように影で笑ってたのだろうか。 とにかく今は周りにいるこいつらが憎い。殺してやりたい。だがそうする度胸がない。たとえ近くにハサミやカッターナイフがあっても出来ない。だが私の手と彼らの間の空間で何らかの術が使えれば話は別だった。そんなもんはファンタジーでいう魔法の話だ。現実には起こらない。
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