1章「始まりは終わりを告げる」

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大学の授業が終わった。 私は二・四・五時限を終え電車を三本乗り継ぎし、駅から家に向かう道を歩いていた。その途中で自動販売機から缶コーヒーを買って飲むのは一時の幸せだ。しかもこんな暑い夏休み前ならなおさらである。 私はいつも買う自動販売機の前に制服を着た黒髪のポニーテールの女の子がそこにいることに気が付いた。 どこの学生だろうか。 彼女は自動販売機をじっと見つめたまま動かない。私は先の自動販売機で買おうと思いこの道をそのまま歩くことにした。その自動販売機は五分かかったここよりも三倍は時間がかかる場所に設置してあるが仕方ないことだ。 そう思いそのまま先に歩く……つもりでいた。私が彼女の背後の辺りを歩いた時だった。彼女は私の方に首を振り向かせてこう言った。 「お兄さん。……あげるので……下さいまし」 「え?」 急に言われたのですべて聞き取れなかった。 「お金あげるのでジュース買って下さいまし」 彼女は再びそう言いお金を片手に持っていた。その金貨は太陽の光で輝いている。お金があるなら自分で買えばいいのに……。まさかどこかの貴族の人で使い方が分からない……。いや、そんな人がこんな道を歩くわけないだろうと思いつつ両手を皿のようにして両手を差し出す。 彼女は私の手のひらを見ると苦笑いした。ここでやっと思い出された。生命線が 無い手のことに。私は彼女から受け取った百円玉と十円玉三枚をそのまま投入口に突っ込む。最後の十円玉が入った瞬間、私の右肩から上と頭の右側の空間を何かが背後から通過する。自動販売機に思いっきり石を叩きつけたような音がしたと思ったら取り出し口に物が落ちる音がした。 「両方とも取って下さい、お兄さんまし」 取りだし口の中からオレンジジュースEXを取り出す。 両方って何だ? なんとなく自動販売機の下に目がいく。 地面にコインが刺さっていた。そのコインをつまんでひっぱてみたら、簡単に取り除くことができた。コインを見ると赤色に“M”という文字が書いてあり、裏には赤色のまま何も書かれていなかった。 「ありがとう、兄さんまし」 彼女にコインとオレンジジュースEXを渡すとそう言われた。そして彼女は一口飲んでダッシュで私の来た道を逃げていった。私はその間口を開けたまま立ち尽くしていた。結局、ここの自動販売機で缶コーヒーを買って帰るのだった。
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