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その後、私はいつものようにテレビを見たり食事したりなどして普段通りの時間を過ごしていた。夜九時頃、母親に「風呂入ってきなさい」と言われたので入ることにした。服を脱ぎタオルを持って中に入る。後ろを振り返り扉を閉じた。
その時だった。
「ねえ、今日はまだ傷付けてないね。痛そうな傷跡も残ってる。もしかしてこれから?」
どこからか声がする。一番可能性のある人物の名を言ってみる。
「母さん?」
しかし彼女が息子である私にこういうことは言わないだろう。
「違うよ」
予想通り違った。声が少年みたいだった。声変わりしている弟でもなさそうだ。
「お前、一体どこにいる?」
「風呂場の桶見てみなよ。僕はそこにいるから」
その声の通りそこを見てみる。そこにいたのはパッチリした青い目をし茶色の体をした生き物が仰向けで浮かんでいた。私は駆除するためにひとまず扉を開けようとした。
「ふふ。無理だよ。僕の話が終わるまで扉は開かないし大声出しても外には聞こえない」
「おい、狐みたいな犬みたいなお前……」
「狐ならいいけど犬は嫌だな。それに僕には“コイトス”っていう名前があるんじゃい」
「急に口調が乱れたな……っていうかしゃべれるのか?」
「気付くのが遅いよ。あんた……身体洗うのか」
「ああ。洗いながらでも聞いといてやる……っていうかお前、母親が入っていた時もいたのか」
「うん。普通の人間には見えないし人間の男女関係には興味ないからね……ってうわー」
私はなんとなくコイトスにシャワーを五秒間ぶっかける。
「何だよ、急に。君のことは知ってんだぞ」
「何をだよ?」
「君の手に生命線が無いことを……」
身動きが止まってしまった。私は肉球をこちらに見せているコイトスを見て言う。仰向けに浮かんでいるから仕方のない格好なのだろう。
「肉球のお前が言うな」
「人間は嫌味を言われるとすぐ怒る。面白い生き物だ」
私は黙れと思いシャワーをまたコイトスにかける。
「だからやめたまえ。君、今日はなんかおかしいことなかったか」
「今日……自動販売機の前に立ってお金を俺に渡してジュースを買わせた制服の……」
「その制服は中学生だね」
「ああ、黒髪のポニーテールの女の子がいたよ」
「その子は藤井モナコ」
「お前、知ってるのか」
「もちろん。コイン見ただろ」
「赤色に“M”って書いてあった」
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