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一緒に梛も教育実習生として入ってきて、視線が交わった。その瞬間、梛は軽く大丈夫だというように頷いた。思わず詩子は小さく頷き返して、それが秘密の合図のように思えて少し嬉しくなった。そう思った時点で、なんでもない関係とも言い切れないと詩子は改めて思い直した。
ホームルームに続いて日本史の授業が終わり、女子は梛の元に集まった。どうせプライベートな質問は受付ないだろうと、女子に囲まれずホッとしていた詩子は、もう一つの頭痛の種を思い出した。煉が教室に顔を出したのだ。
「詩子ー」と呼び捨てにする様は、何人かの女子をざわつかせた。
詩子は梛が見ているのに気づきつつ、慌てて廊下に出て煉の背中を叩いた。
「あんま叫ばないでよ、恥ずかしい」
「ねー二時間目遊ぼー。自習とかやってらんねー」
煉の能天気な誘いに詩子は呆れ顔を向けた。
「あのね、こっちのクラスは自習じゃないんだよ」
「いーじゃんいーじゃん、暇なんだよ」
「私まで巻き込まないでよ」
「へー、槙原センセとはサボれてもー?」
にへらと笑いながら痛いところを突いた煉に、思わず詩子は動揺して煉を見た。
「昨日、」と言いかけた煉の口を思わず塞いだ。誰が聞いているか分からない。
「わ、分かったから!」
詩子の言葉に煉がガッツポーズをきめる。そこまでして自分を繋ぎとめようとする煉の意図を読めないまま、詩子は真美に二時間目欠席することを伝えた。
二人がやってきた体育館の裏は校舎などの死角にあり、カップルがよくサボることで生徒たちの間では暗黙の場所だった。ちょうど他のカップルもいず、煉はコンクリートの階段に座ると詩子にポッキーを差し出した。詩子はそれを受けとってかじりながら、スマホをいじっていた。
「なーんかさ、最近、詩子、槙原センセと仲いー感じ?」
「え、別に……」
一瞬スマホをいじる手を止めて、詩子は素早く煉をうかがいみた。煉は素知らぬ風を決め込んでいるのか、空を仰いでポッキーを複数本まとめて食べている。
「でもさーあんま仲よくしない方がよくね?」
「だから仲よくないって言ってるじゃん。決めつけないで」
「なんかゲデヒトニスに出入りしてるみたいだし?」
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