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兄の眞一郎だった。そう分かるだけで泣けてきた。
「詩子?」
詩子は慌てて布団をかぶった。泣きそうな顔をなぜか兄には見られたくなかった。
ドアが開く音がした。
「なんだ、寝てんのか……」
電気を消す音がして、ドアが閉まった。階下に降りる足音に耳を澄ませて、詩子はホッとしたように息をついた。そして布団をかぶったまま目を閉じた。まさか家の中さえ、見たことのないような錯覚に陥るとは。
眠って明日を迎えれば何もかも元通りになるかもしれない。そんな希望に縋るほか、今の詩子には何もできなかった。
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