第二章

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 兄の眞一郎だった。そう分かるだけで泣けてきた。 「詩子?」  詩子は慌てて布団をかぶった。泣きそうな顔をなぜか兄には見られたくなかった。  ドアが開く音がした。 「なんだ、寝てんのか……」  電気を消す音がして、ドアが閉まった。階下に降りる足音に耳を澄ませて、詩子はホッとしたように息をついた。そして布団をかぶったまま目を閉じた。まさか家の中さえ、見たことのないような錯覚に陥るとは。  眠って明日を迎えれば何もかも元通りになるかもしれない。そんな希望に縋るほか、今の詩子には何もできなかった。
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