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真実、という言葉が痛い。詩子はぎゅっと両手を握りしめた。なぜ自分は記憶を失っていくのかは知りたかった。大切な人たちがいつか記憶から消えてしまわぬうちに対処できるなら、治したい。誰だってそう思うだろう。
「すみませんでした……。お願いします」
詩子は疑ったことを恥じながら、改めて頭を下げた。それは同時に自分に覚悟をさせることでもあった。
決めたのは自分だ。例え記憶が塗り替えられていようと、真実を知りたい。
詩子は不思議に強くそう思いながら、きゅっと唇を引き結んだ。
後戻りはもうできない。
詩子は鋭く見つめる梛をまっすぐ見返した。視線が交わった時、かすかに梛の表情が柔らかくなったように見えた。その表情に、詩子の鼓動がかすかにはねた。なぜかその表情を知っている気がした。
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