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放課後、詩子と梛は高校の図書室に来ていた。数人の生徒が棚の前に立って本を選んでいたり、机で読書していた。
二人が図書室に来たのは、詩子が図書室の夢と青年のことを話したからだった。
「詩子を読んだ時、その男はいなかったけど、図書室でのイメージがものすごく強いエネルギーで迫ってきた。この前、このことも言いたかったんだけど、それどころじゃなかったから」
「すみません……。でも頭痛のたびに見る夢だし、何か意味はあるのかと思って……」
「意味はあると思う。まずはその図書室がどこのものか知りてーんだよな……」
「ここの図書室じゃないですよね」
「レイアウトも違うしな」
図書室を見渡し、詩子は明らかに違う棚の様子やレイアウト、広さにため息をついた。
「うーん……、夢の中の物を読んだことはないけど、やってみるか……」
考えこむように言った梛の言葉に、詩子はまた自分を読むのだと分かった。
社会科準備室に戻った梛は、ドアを閉めてカギをかけた。
「わりぃけど、また読みたい」
梛はそう言いながら、両手の手袋を外した。詩子は頷くと素直に梛に近づいた。梛はこの前のように詩子の額に手をあてた。そしてもう一方の手で詩子の手を握った。ひんやりして少し骨張った手に、詩子の鼓動がまたはねた。それに気づかない振りをして、詩子は目を閉じ、深呼吸して、自分の内部を見つめるようにした。
ハッとした時、詩子はまた図書室にいた。例の夢の中の図書室だった。でも今回は隣に梛が立っていた。
「これが詩子の図書室か……」
梛が図書室をめぐるように歩き出した。その様子を見ながら、詩子は自分のものだけだった夢に梛がいても嫌じゃないことに気づいた。むしろ妙に梛がいることがしっくりしていた。
「詩子、ここは本当に実在する図書室なのか?」
かすかに梛の声音が弾んでいた。直感であると感じていた詩子は、「そうだ」と答えた。詩子が眺めていると、梛は棚の本を引っ張りだして、ぱらぱらとめくった。
「すげぇ……オレが読みたい本がかなり……」
ぶつぶつ言う梛に近づいて、詩子は思い出した。そういえば梛は文机の前で分厚い本を読みながらコンビニ飯を食べていたのだった。
「あの、本、好きなんですか?」
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