第二章

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「いちおうオレ、教育実習の先生なんだけど……」 「先生は抜けるの厳しければ、いいです。ひとりでも」  そう言った詩子に梛は軽く頭を振ると、まだ手袋をしていない手で詩子の頬に触れた。 「ひとりで行かせらんねーじゃん」  どきり、と詩子の鼓動がはねた。梛は柔らかい笑みを浮かべていた。初めてそんな表情をする梛を見て、詩子の胸の奥が騒ぎだす。顔が赤くなりそうで、詩子は見られないよう頭をさげた。「ありがとうございます」 「うん、じゃあ明日森駅九時。くれぐれも制服で来んなよ」  優しい言い方だった。詩子はどうしたらいいのか分からなくなりそうで、慌ててお礼を言うと社会科準備室を出た。  ただ自分の胸の奥がぬくもりに包まれているような感じがした。
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