第二章

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 目の前にそびえる校舎は、詩子たちが通う森高校とはまったく違い、とても近代的だった。グレーとブルーのクールな色合いは周りの高層ビルの中にあって落ち着いた雰囲気を醸し出していた。今は授業中なのか、校庭にも人気はない。  電車の中で調べた時には、かなり優秀な進学校で、しかも裕福な子たちが通うとあった。自分が普段通う高校とは雰囲気が全然違っていた。梛はとくに変わりもしない表情だ。でも詩子は、デザイン性の高そうな外観に少し飲まれながら、梛にくっついて来客用の窓口へと向かった。  来客用の窓口で梛は改めて訪れた意図を伝えた。 「ええ。僕は彼女の兄です。今日は編入試験を受けようか迷っていて、とりあえず見学できないかと」 「ご予約は?」 「いえ、すれば良かったでしょうか? 受験前の今になって急に決まったものですから」 「いいえ、大丈夫ですよ。じゃあ来客名簿にご記入ください。追って、担当のものがご案内いたしますので」  慣れた風に梛は来客名簿に二人の名前や住所を記入していると、ほどなくして楚々とした女性が現れた。 「私がご案内します。当校へは初めてですか?」 「はい。急遽東京へ親の転勤が決まったものですから、かなりバタバタで編入先を探してまして。両親の意向で創業者の意図をくんだ教育熱心なこちらも候補にあがっているんですよ」 「そうですか。それで……。でしたら当校の教育方針はお嬢さんにふさわしいものかもしれませんね」  そう言いながら案内役の女性は梛に学校の設立意図や創業者の方針、教育目標などを話し始めた。それに梛は熱心に耳を傾けている。妹を案じているいい兄の絵がそこにあった。  内実を知っている詩子としては、少し複雑な想いを抱えながら、廊下から見える教室の風景や体育館などを見て回った。内観もデザイン性が高く、しかも居心地良さそうに外とは違って木材が多用されていた。ただ中はいくらそうでも、通う生徒は森高校の自分たちとたいして変わらない感じがした。 「では次に、我が校が誇る図書室に参りましょう。根元さん、読書はお好きですか?」  梛にやたら熱心に話しかけていた女性が振り返って問いかけた。詩子は「はい」と答えて、期待と不安の迫間で揺れる気持ちで、女性が開けた教室へと一歩足を踏み入れた。
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