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その瞬間だった。既視感が詩子を揺さぶり、思わず「ああ……」と詩子の口から声がもれた。
「すごいですね……」
梛は詩子のことを気にしつつ、本当に驚いたように声を漏らした。
「そうでしょう。全国の学校の中でも我が校の蔵書数は群をぬいています」
「どのぐらいあるんですか?」
「約十八万冊です。大学附属の私立高校ではけっこう蔵書数の多いところがあるのですが、我が校はその中でもトップです」
さも自分の自慢のように言う女性に、梛は閉口しながら詩子が導かれたように奥の方で行くのを目の端で追った。
「妹さんは本がお好きのようですね」
同じように詩子の動向を目で追っていた女性が微笑んで、さらに続けた。
「我が校は、ご存知の通り文学研究者だった創業者のコレクションを元に蔵書数が増やされてきました。ですので、高校生にはあまり必要ないと思われるような初版本など貴重な資料も揃っているんですよ」
「高校生だけに開放しているのがもったいないですね」
「ですから、校友には開放しているんですよ」
なので我が校からは研究者や学者などなど素晴らしい人材が……という話を聞き流し、梛は詩子がある場所から動かなくなったのを見て、「ちょっと」と遮って詩子の方へ向かった。
詩子は自分の身体が覚えていることに驚きながら、ある一郭で立ち止まった。そこは夢の中の場所と全く同じ光景が広がっていた。夕方の時間ではなかったものの、背の高い本棚には文庫本がぎっしりつまっていた。そして突き当たりの本棚には全集の分厚い本が背表紙を見せていた。図書室の青年は、その全集の本の一冊を抜いて、そこに寄りかかっていたのだと今なら分かる。
詩子は茫然としながら、ひたすらそこを見つめていた。その肩を梛がつかんだ。
「詩子」呼びかけた梛を振り返り、詩子はその目が同じことを思っていることを見てとって、複雑な笑みを浮かべた。
「変なの、本当にあるなんて」
「……校友には開放しているらしいから、後で潜りこむ」
二人は女性に礼をのべ、図書室を後にした。
後ろ髪をひかれる思いで何度も図書室を振り返る詩子に、案内役の女性はおかしそうに笑った。
「よっぽどお気に召されたようですね」
「ええ、僕もあの蔵書たちには興味があります」
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