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梛はスタイルも顔もいい。最初の印象が悪かっただけにあまり意識していなかったものの、改めて見ると普通にモデルのようだった。高校でも女子から人気だったと思い出しながら、詩子はなんだかおもしろくない気分になった。そういう気分になる自分が少し嫌だった。
チェーンの飲食店を出て、梛は口を開いた。
「図書室の夢、キーになる気がするんだ」
「キー?」
「詩子の真実のだよ。ずっと考えてた。あの図書室のイメージがイメージじゃなく本物だと分かったときから、真実の記憶を探る大事な」
どんどん往来の人が増えてきた。駅に向かいながら梛は少し言葉を探すように黙った。そして人ごみから詩子を守るように、ごく自然に盾になって歩いた。
「図書室の夢の青年は、オレは見ていない。でもそいつも実在するんだろう。というか、本当の記憶が図書室の夢を見せたに違いない。だったら、他に探る必要があるのはなんだろうと」
梛の言葉に、詩子は自分の夢を思い返した。
青年は本を読んでいた。
「本……。図書室の彼は本を読んでいたの。分厚い本。たぶん全集のうちの一冊のようにしっかりした装丁だった」
「オレが詩子の夢を読んだ時、男はいない。でも本は机にあった気がする」
「たぶん、それです。……直感だけど」
「夢のことに関する直感は大事にした方がいい。今日、帰ったらゲデヒトニスでまた読んでみる。何か男について分かるかもしれない」
詩子は頷くと、人ごみを切って歩くような梛のことを見上げた。意志の強い瞳をしていた。
夢と記憶喪失のことが解明されたら、それきりの関係になってしまうのだろうか。
夢の中の青年は、詩子にとって大事な人のようだった。だからこそ、梛との関係がこのままになってしまうのはなぜか淋しかった。人ごみから自分を守ってくるその背中が頼れるだけに。
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