第二章

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 素手が詩子の額と手に触れた。そのひんやりした手が心地よくて、詩子は目を閉じた。そのまま自分の内部を見つめると、実在の図書室を知ったせいかすぐに夢は訪れた。  東京葵学園高校の図書室は、校舎の見た目と違って、木材が多用された穏やかな時間の流れる場所だった。そこに、梛とともに詩子は立っていた。 「あの机にある本……」  また青年はいなかった。詩子は本に近づいて手にした。表紙も背表紙もぼやけていた。詩子は中をぱらぱらとめくって、戸惑ったように梛を見た。梛が受けとってみると、真っ白なページが続いていた。梛はさっと手袋をとると、静かに目を閉じた。 「ダメだ、あまり情報が読みとれない」  すぐに梛は頭を振って詩子に本を返した。詩子は装丁を確かめるように、本を撫でた。 「でも新しいものではないみたい」 「そうだな……全集のうちの一冊……」  梛の言葉にハッとしたように詩子は、いつも青年が寄りかかっていた本棚に駆け寄った。そして空いている隙間を見つけようとした。梛はその詩子の行動の意図を読みとって、同じように全集が並んでいる本棚の背表紙を丁寧になぞっていった。そしてなぞっていくうちに、だいぶ古い全集が揃えられていることが分かった。  そして梛が先に空いている隙間を見つけ、「詩子」と呼んだ。詩子は梛の脇にいくと、指された部分を見た。その一段は、ぼろぼろになった背表紙のある棚だった。書名は読めない。隙間の空いている隣の本を引き出した。ページをめくると、真っ白だ。 「本じゃないのか……」  詩子と梛はそれぞれその一段の本を抜き出しては確かめた。すべて真っ白のページが続いた。 「現実の本だったら違うかもしれない」  詩子の言葉に梛が頷いた。 「惠には裏ルートを使って、校友として潜りこめるようお願いした。週末、行こう」  梛の言葉に頷き、詩子は手の内の本を戻した。そうして詩子は梛が自分の夢から去ったのを見届けて目を開けた。梛が自分から離れているのを確認して、見守っていた樫木を見た。 「収穫はありましたか?」 「現実の図書室に行かないとこれ以上は分からない」  梛の言葉に樫木は頷くと、日本茶を啜った。詩子もすすめられた和菓子をつまみながら、梛が手袋をはめる様子を眺めていた。
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