第二章

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「それにしても、東京葵学園と繋がっているとは……」  ふと漏らした樫木の言葉に梛と詩子が反応した。 「惠?」 「ああ……。梛は知りませんでしたか、梛も私も育った児童養護施設は東京葵学園の経営ですよ」 「なんだって?」 「東京葵学園は少し特殊なんです。優秀な人材を集めることに長けていて、実際そうすることで政財界や学界に太いパイプを結んでいます。梛、私たちの仕事も多少なりとも東京葵学園の恩恵に預かっているのですよ。ただ児童養護施設はほとんど東京葵学園直営とは言っていませんので、普通は知られていないことなんですけれど」 「惠は知っていたのか?」 「梛はあまり表に立たないですからね。いろいろ矢面に立つにはいろいろな事情を知っておかなくてはならないんです」 「……悪かったな、矢面に立ってもらって」 「冗談です」  詩子は樫木がこの前懐中時計をもっていった西園寺家のことを思い出した。 「西園寺家との繋がりもそういうところから来ているんですか?」 「ええ、鋭いですね、詩子さん。西園寺家との繋がりは、東京葵学園の理事長繋がりです」 「理事長……」  思ったより深い繋がりをもっているらしい。詩子は自分が東京葵学園の図書室を知っていたこと、そして梛たちが少なからず東京葵学園と繋がりがあるらしいことに驚かなかった。なんとなく納得していた。  自分の記憶喪失のことも含めて、会うべくして会った人たちなのかもしれないと。  ゲデヒトニスを出ると、月が墨を掃いたような夜空に切り抜かれたように浮いていた。星の瞬きを見ることができるほどには、詩子の住む山上は明かりが少ない。詩子は送ると主張した梛に丁重に断りを入れ、一人で街灯の煌々としたメイン通りを歩いていた。時おり車が猛スピードで走り抜けていった。  いろんなことが起きすぎて、一人になって考えたかった。  いつも通る道が今までははっきりした未来へ続いていたはずなのに、今は見知らぬ未来へ伸びているように見えた。でもその隣には、とりあえず樫木と梛が寄り添ってくれている。何か不確かな絆のようなものを感じたのは、今日が初めてだった。そして、梛は愛想が悪いけれど、それでも梛は梛なりに気にかけてくれている雰囲気を感じていた。  詩子は小さく「よし」と気合いをいれると、偽りかもしれない家への道を歩き始めた。
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