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まさか女子に囲まれるようなことになるとは思ってもいなかった。詩子は軽くため息をついて、好奇心とかすかな嫉妬の入り交じったたくさんの視線にゆるく頭を振った。
「だからなんでもないよ。槙原先生、知り合いの知り合いで」
「そうなの? でも私服で駅ってちょっとあやしいじゃん」
「だから山下円通寺に共通の知り合いがいて、挨拶しに行かなくちゃいけないことになって……」
真美と一郎が遠巻きに心配そうに見ているのは分かっていた。でもこうも女子に取り巻かれていたら身動きはとれない。彼女たちの納得のいく説明をしない限り解放してもらえそうになかった。
どうやら詩子と梛が二人で電車に乗り込んで山下方面へ向かったことを見かけた女子がいたらしい。ただ行き先の東京までは追えなかったのだ。
「でもさあ、わざわざ平日にってさあ……」
嘘をつくのも限界がある。詩子はちらりと時計を見た。もうすぐ授業が始まる。そうすればなんとか包囲網からは逃れられるはずだ。
「槙原先生とは本当になんでもないって」
「ホントー?」
あやしいと言いたげな視線の数々にいい加減うんざりしていると、チャイムが鳴った。
「なんか女ってこえー」
席に戻ると一郎がびくびくしている。真美は一郎を小突くと、詩子に駆け寄った。
「大丈夫?」
「うん平気。でも参ったー」
「煉くんのこと言えばいいのに。昨日、煉くんが訪ねてきてたんだよ。で、うたにまた告ったって聞いた」
なにげなく真美が言ったことに、詩子は忘れていたことを思い出し、さらにげんなりした顔になった。その顔を見て、真美と一郎が笑う。
「まだ返事したわけじゃないし、もう一度終ってるし」
「えー、フるつもりでいんの? もったいなー。煉くん、すごいモテメンなのに」
確かに煉はあの軽いノリがウケて、女子たちに可愛がられている方だ。でもそれとつき合うかどうかは関係ない。むしろ今はそれどころではないのだ。詩子は苦笑しながら席についた。
ちょうどその時、教室のドアが開いて担任が入ってきた。
「席つけーホームルーム始めんぞー」
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