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眉をひそめて不快そうにした梛に、詩子は小さく「そうだよね」と言って笑った。その詩子を訝しげに見つつ、梛は近くの階段に座った。何も言わずとも心配してそばにいてくれるのだと分かり、詩子の胸の中にあたたかいものが広がった。
梛たちはバラさない。それは確信だった。
どこから眞一郎と煉にバレたのかは分からない。でも、と詩子は考えこんだ。
でも、自分の記憶が塗り替えられているとしたら、そして記憶喪失が続くとしたら、やっぱり詩子は真実を知りたいと思う。それで壊れる関係なら、きっとそれまでだったのだろう。でもそこからやり直すことだってできるのではないか。
やはり真実を知りたい。
それが周りにどういう影響を及ぼすかは分からないけれど、自分にとって一番正しいと思えることは、真実にたどりつくことだと思った。
煉が言うことも正しい。必ずしも真実を突き止めることばかりがいいとは限らないこともあるかもしれない。
それでも、と詩子は何度も反芻するように考えた。
どうしても自分の中の何かが、真実を求める。
そこからしか始まらないことがある気がする。
詩子は梛を見た。梛は文庫本を手に真剣な表情で読んでいた。
「梛くん」
「ん?」詩子の呼びかけに梛は顔をあげた。
「戻るね」
「大丈夫か?」
詩子は梛の言葉に微笑んで頷いた。余計なことを言わない梛がそばに黙ってついていてくれることで、詩子はなぜか大丈夫だと思えた。
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