第二章

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 煉とよりを戻したのか、槙原先生とはどうなのか。そう女子たちに責め立てられてぐったりした詩子は、自宅のソファに身を投げた。何も考えず、このまま眠ってしまいたい誘惑を必死ではねのけ、詩子は母親が清潔に保っているキッチンに行くと、冷蔵庫から牛乳をとりだして、コップに注いだ。  家の中は静まり返っている。詩子は冷蔵庫を閉め、ソファの方にいってテレビをつけようとした。ガタ、と廊下の方で音がして、詩子はコップを置くと廊下に出た。  見知らぬ家だと恐怖に陥ったのはついこの前だ。思い出したから良かったものの、あのまま思い出せなかったら、とひやりとしつつ、廊下を見渡した。 「お兄ちゃん?」  帰ったのかと思い、玄関口に一番近い兄の和室の方に声をかけた。  物音はしない。気のせいかと思いつつ、和室の前に立った。  兄と煉が繋がっていることなど知らなかった。いや、兄のプライベートなど一切気にしなかった。気にする必要もなかったし、要は何かとかまってくるうざったい兄としか思ってなかった。 「お兄ちゃん、帰ってるの?」  和室の前で声をかけた。沈黙が返ってきて、詩子は和室の戸を開けた。  めったに入らない部屋は、閑散としていた。何か違和感を感じ、詩子は一歩中に入った。ぞわっと鳥肌がたった。眞一郎は普段この部屋で過ごしている。その割に、物がない。生活感がなかった。  壁ぎわに数冊の本、そして紐のかけられたいくつかの古い木箱。整理されてがらんとした空間にはそれだけで、それ以外のものは押し入れに入っているかのようだった。大学生なら、もう少し何かあってもよさそうだった。例えば、パソコン類やオーディオ機器とか、趣味のものとか。  そういえば兄の趣味も志向も知らない。  いつも構ってくる兄の別の一面を見た気がして、詩子はひどくいたたまれない気分になった。部屋を見なかったことにしようと踵を返しかけて、視界の端にうつった新聞に目がいった。黄ばんだ新聞だけ放るように置かれていた。詩子はそれに近づいて、手にした。がさがさとやけに新聞の音が耳についた。
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