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第三章
週末は雨の天気予報どおりだった。重たげな曇天からは雨粒がどんどん落ちてきて、詩子の目の前のアスファルトを濡らしていった。
本降りになる前に東京葵学園に着いてよかったとホッとしながら、詩子は梛について関係者用玄関をくぐった。そして窓口で図書カードを見せ、図書室へ向かった。
図書室には、高校には似つかわしくない年齢の一般の人たちがちらほらと姿を見せていた。詩子と梛は夢の光景の場所近くの机に陣取ると、奥の書棚の一番下の段を指さした。
「夢の中ではこの段の本が抜かれていた」
「ボロボロだったけど、この段の本もそうだね」
二人は全集の最初の巻を抜くと、箱から抜いて中を開いた。
「日記……」二人は顔を見合わせて、表紙を見た。だいぶ傷んでいるものの、書かれている題名と著者名を読むことはできる。
「メモリア、千堂うた」となぞりながら詩子が口に出した。
「千堂はここの学園の創業者の名字でもある。偶然にしてはできすぎだし……。メモリアは、たぶん思い出とかの意味だろう……。発刊はいつ?」
梛の言葉に詩子は本の背表紙側を開いた。
「明治二八年、ってだいぶ前ですね」
「樋口一葉の『たけくらべ』が出た年……女性作家が少なかった頃に日記か」
誰に聞かせるとでもなく呟かれた言葉に、詩子は梛の博識に驚いたように見た。梛は詩子の手から本をとりあげると、ぱらぱらとページをめくった。そこには古い文語体で書かれた文字が並んでいた。
「これを読むのはけっこうきついな。隙間が空いてたのはどの辺りだった?」
詩子は二十巻揃っている後半の方をさした。
「後ろから調べていくか」
詩子と梛はそれぞれ後半の本を抜き出し、机に戻って本を開いた。詩子は苦戦しながらも、必死で文字を追った。ページを繰る手が早い梛がしばらくして、「驚いた」と呟いた。必死で意味を読みとろうと格闘していた詩子は顔をあげた。
「これは……昔の骨董記憶の記録だ」
「え?」
「この千堂うたっていう女性は、オレと惠がやっていることをかつてしていた人だ」
たった数十分で内容を理解している梛に、詩子は泣きそうな顔を向けた。
「私、全然読めなくて……」
「ああ、悪い……。オレが読むから」
梛の言葉に詩子は頷いて、それでもなんとか読もうと目の前の本に向き合った。
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