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じわじわと涙がたまり始めた目でイヤイヤしたら、口の中から指が引き抜かれた。
「……ほんとにしてないの?」
こくこくと頷くと、両手で顔を挟まれて、上を向かされた。
零れ落ちそうになっている涙を、親指で拭ってくれる。
「……じゃあ。
俺と先にしようか?」
黒縁眼鏡の向こうから、陸哉の目が私を見つめる。
兄弟なのに、全然似てない海翔先生と陸哉。
ゆっくりと近づいてくる顔に自分のうるさい心臓の音しか聞こえない。
ゆっくりと目を閉じ、そして……。
キーンコーンカーンコーン。
「……!」
突然鳴り始めたチャイムの音で、身体を震わせてしまった私に陸哉が離れた。
「下校時間だな」
「……そう、だね」
まだうるさい心臓の音に気付かないふりをする。
……陸哉とキス、……できなかった。
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