第1章

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 ううっ、寒い。京都の夜は冷える。でも私は今晩も外へ出てきた。私には秘密がある。運命の男性を求めて夜をさまようという。 私は生まれつき奥手な性格であった。普段はそのことを周りに気取られまいとわざとあえてがさつに振る舞っている。本当は男の人に寄りかかりたいのに...。 弱点をさらけ出したくない。それだけで男に肘鉄をくらわしたり、引っ張りまわしたり。ますます男が遠のいていっている。 さらに間の悪い事には近所に道場があり、道場主からお前は筋がいいと半ば無理やり古武道を習わされるはめになった。 上手く断ればいいのにこんな時に限って奥手な性格がでてきて道場に通い詰めなければならないはめになってしまった。今では並みの男よりよっぽど強くなってしまった。 悲しい。本当は男の人を陰で支える側にまわりたいのに。 そこで私は一念発起して毎夜京都の街を徘徊しはじめた。もちろん運命の男性を求めて。 とりあえず頼りがいのある男性に声をかける。しかし、下手に武道をかじったおかげで少し見ただけで自分とはつり会わないダメだと別れてしまう。でも未練もありいつも彼の身につけているものをもらっていくようにしている。この奥手な顔と粗暴な顔が同居している矛盾が運命の男性を私から遠ざけているのかもしれない。 駄目だもう心がもたない。昨日まででで通算99人目の男に振られている。今度でとうとう100人目だ。いい加減次の男性であきらめよう。そしてその人が私とつりあう人でなかったらもう夜の徘徊は辞めよう。普通に生きよう。 そう一人の男性として、やはりこんな常人の倍ほどの背丈のある大男を受け止めてくれる男性なんていないだろう。 そう思っていると綺麗な橋が見えてきた。京都には渡月橋をはじめ美しい橋が多い。 あっ、橋に男性がもたれ掛かっている。小柄で私より年下かもしれない。でも、涼しげな目、スリムな体形。好みだ。よし、あの人に決めた。私は思い切って五条大橋と書かれた橋の上の男性に声をかけた。 「やあやあ、何だお前は俺が世に知れた武蔵坊弁慶とわかって道をふさいでいるのか。小僧。いい度胸だな名を名乗れ」 「ふふふ、いいだろう我が名は牛若丸。いざ尋常に勝負しろ」 私はやっと運命の人に出会えた。この奇跡は逃さない。彼となら死ぬまで運命をともにできる気がする。
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