メトロ side : Yuhito

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昼も夜もこの世界はグレーだ。足を緩めてはいけない。迷いを見せてはいけない。常に目的地があるように見せなくてはいけない。じゃないとすぐに取り込まれる。弱さを見せたらつけ込まれる。 立ち止まらず、視線も動かさず、できる限りの最短時間で表示を確認する。言葉が飛び込んでくる。聞き慣れた言葉、ひどい訛り、何処かの国の知らない言葉。派手な電光掲示板が目の端を掠め流れていく。ちらりと携帯の時計を確認して、用紙に書き込む。 まだこの仕事を始めて数日しか経っていないのに、ずっとここに閉じ込められ、明るい空も見ずここで死ぬまで暮らしていくような妄想にとりつかれる。夜はちゃんと自分の家で眠っているというのに。 それほどこの場所は絶望的な行き止まりを感じさせる。そうじゃない。そんな風に感じるのは俺がもう滞る澱のようなものに絡め取られそうになっているからだ。施しを請う親子、ベンチでビール缶を握りしめたまま眠るホームレス、誰にも足を止められず物悲しい音楽を奏でるミュージシャン。そんな人たちと同じように、気づくと天井が低く薄暗い閉ざされた空間に慣れ、その空気に馴染み、同調しようとしている。 周りを見渡してみれば、家族連れや観光客、学生グループ、男女のカップル…そういう人たちで溢れているのに。階段に、通路に、ホームに。笑い合い、言葉を交わし、手を繋いで。 ここはヨーロッパの比較的大きな都市にある地下鉄網の構内だ。特に危険な地域ではない。この街は好きでも嫌いでもないけれど、暗く悪臭の漂う地下鉄は全く好きになれない。 携帯電話を奪うためにホームから突き落とされたり、病院行きになるほど殴られたり、両手を数人で羽交い締めにされて財布やカメラを奪われる、なんてことが起こる場所が、危険と認定されるか、されないかはよくわからない。ただ、自分の身は自分で守らなければいけない。一瞬の判断がすべて、結果につながることを覚悟しなくてはいけない。
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