メトロ side : Yuhito

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いつもは通常歩行速度の1,5倍で歩いているが、2倍まで早める。後ろを付けてくる気配があった。意識を集中させ周囲にさりげなく注意を配り、複数に狙われていないか様子を探る。完全には振り向かず俯き加減で後ろに目を遣り、相手の体格や人相を伺う。 もうだめだ。これじゃ2倍どころか3倍近いし、途中で曲がり角を記録し損ねた。まったく…やり直しだ。 そう思った時、不意をつかれ腕を掴まれた。振り向いて認めたのは、二十代初め、自分と同じ年頃のアジア人の男だった。怪しい雰囲気を微塵も感じさせない、ごく普通の男。 「何してるの?日本人でしょう?」 屈託ない笑みを浮かべ、日本語で話しかけられた。こういう時は言葉がわからないふりをするに限る。 「言葉わからないふりしてもだめだよ。日本語判るって知ってるよ。その紙、日本語が書いてある。」 手にしている記録用紙をちらりと見て男が言う。 警戒は解いてはいけない。心を許してはいけない。視線を受け入れてはいけない。 握られた腕はいつまでも離されずにいる。
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