木陰の向こうに揺れる夏 2 side : Louis

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シッコク、心情を含む深いクロ。 そのイメージはニホンに似合う。嫌な意味ではなくて、深く黒い瞳、艶やかで黒い髪だったり、単純にそんなイメージだ。 この国でニホンと聞くと、行ったことがなくても、実質知らなくても『いい国だね』とほとんどの人が言う。この街の人間に至っては『行ったことがあるよ。また行きたい』『友達がいるよ。行ってみたい』と言う人も多い。 小さい頃は、なんて綺麗な黒髪だと通りがかりの見知らぬマダムに撫でられたりもした。 歴史やゼンの心を重んじる、美しい国だと思われている。 随分前からニホンのマンガやアニメ、ゲームも身近に入ってきていてクリエイティヴな国だとも。四季を愛で、繊細な心の機微を重要視する『共通項』を認めることで好意的な評価を得る国だ。 ニホンに行ったのは最後は十歳、全部で四回。そのほとんどに記憶がない。 神社のお祭りに連れて行ってもらったり、オンセン(温泉)に行ったり、おもちゃ屋で好きなものを祖父母が買ってくれたりした。あちこちに行って、いろんな人に会って、慌ただしく過ぎていった思い出しかない。全てがぼんやりとしている。 憧れはない。ただ、自分たちとこの街で暮らすより、母親はニホンで暮らすことを選んだのだから、きっといいところなのだろうと思う。それだけでないことも、今ならわかる。 父親が別れるなら子供たちを置いていけと言い、裁判で決着したとは聞いているが、詳細については考えない。置いていけって、モノか?とは思うけれど、当然ながら自分は生まれ育った国に残りたかったし、両親を恨んだりもしていない。 今の生活が全てでやりたいこともあるし、好きな人もいるし、もしかしたら、本当は…などとは考えることはない。
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